試用期間中の本採用拒否と解雇の違いは? 手続きの流れや注意点を解説
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2022年度に三重県内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は1万5837件でした。その内、解雇や雇い止めに関する相談は566件でした。
試用期間中の労働者(従業員・社員)を解雇することは「本採用拒否」と呼ばれます。本採用拒否は、法的には解雇であるため、解雇に関する厳しい法規制が適用されます。
企業が本採用拒否を検討する際には、弁護士のアドバイスを受けながら、適切に進めることが重要です。本記事では、本採用拒否と(通常の)解雇の違いや、本採用拒否する際の企業の注意点などをベリーベスト法律事務所 四日市オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和4年度個別労働紛争解決制度施行状況及び均等関係法令に係る相談状況等について」(三重労働局)
1、本採用拒否と解雇の違いは?
「本採用拒否」とは、試用期間満了に伴う労働者の解雇をいいます。
「試用期間」とは、労働者の能力や適性を見極めるために、試みとして労働者を雇用する期間です。雇い入れ後、1か月から6か月程度の試用期間が設けられることがあります。
試用期間中においては、使用者が労働契約(雇用契約)の解約権を留保している状態です。
試用期間の満了に伴い、使用者が解約権を行使して一方的に労働契約を終了させることは「本採用拒否」と呼ばれています。
本採用拒否は、法的には解雇に当たります。したがって、解雇に当たっては解雇原因(懲戒事由・解雇事由など)の存在が必要であり、かつ解雇権の濫用に当たる本採用拒否は無効です(労働契約法第16条)。
ただし、試用期間においては使用者が労働契約の解約権を留保しているため、通常の解雇に比べて、その有効性がやや緩やかに判断される傾向にあります。
2、本採用拒否が不当と判断された場合に企業が負うリスク
本採用拒否に正当な理由がないと判断された場合、企業は以下のリスクを負うことになってしまいます。
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(1)解雇の無効を主張される|復職を認めなければならないケースも
本採用拒否を受けた労働者は、企業に対して解雇の無効(不当解雇)を主張して争ってくるかもしれません。企業側があくまでも本採用拒否(解雇)を維持する場合は、労働審判や訴訟を通じてその有効性を争うことになります。
労働審判や訴訟によって本採用拒否が違法・無効と判断された場合、企業は原則として労働者の復職を認めなければなりません。ほかの労働者を含めた配置転換を改めて行うことは、企業にとって大きな負担となるでしょう。 -
(2)未払い賃金や解決金の支払いを強いられる
本採用拒否を受けた労働者は、解雇後の期間に相当する未払い賃金を請求してくる場合があります。また、解雇を受け入れる代わりに解決金を支払うよう求めてくるかもしれません。
本採用拒否に正当な理由がないと思われる場合、または労働者との紛争の深刻化を避けたい場合には、企業としては未払い賃金や解決金の支払いに応じた方がよいでしょう。ただしこの場合、多額の金銭的支出が生じるため、企業にとっては大きなダメージになり得ます。 -
(3)社会的評判が低下する
正当な理由なく本採用拒否をしたことがSNSなどを通じて知れ渡ると、企業の社会的評判は低下してしまうでしょう。
労働者としての地位が守られない企業というイメージが広まると、優秀な人材が採用選考を敬遠するようになり、人材確保が困難になってしまうおそれがあります。
3、企業が本採用拒否をする場合に注意すべきこと
企業が試用期間中の労働者について本採用拒否をする場合には、以下の各点に留意した上で適切な検討・判断を行いましょう。
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(1)退職勧奨を検討する
企業が一方的に本採用拒否をすると、労働者との間でトラブルになるリスクが高いです。
これに対して、労働者に対して退職勧奨を行い、合意の下で退職してもらえば、労働者とのトラブルを回避できます。本採用拒否に伴うトラブルのリスクが懸念される場合には、まず退職勧奨を行うことを検討しましょう。
ただし、労働者は退職に応じる条件として、解決金などの支払いを求めてくる可能性があります。解決金の支払いに応じるかどうかについては、弁護士のアドバイスを受けながら適切に判断しましょう。 -
(2)解雇原因が存在することを確認する
試用期間中の労働者の本採用を拒否できるのは、解約権の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当と認められる場合に限られます(最高裁昭和48年12月12日判決)。
言い換えれば、雇い入れの時点では企業側が知ることができなかった労働者側の問題点を理由とするのでなければ、本採用拒否は認められません。
一例として、労働者に以下のような行為が見られる場合には、本採用拒否が認められる可能性が高いです。- 度重なる無断欠勤をした
- 重大な経歴詐称をしていた
- 重大な犯罪行為をした
- 故意に会社に重大な損害を与えた
これに対して、以下のような場合には本採用拒否が認められにくいと考えられます。
- 企業の経営不振や人件費の削減を理由に本採用拒否をする場合
- 業務上の軽微なミスや、一度限りの無断欠勤などを理由に本採用拒否をする場合
- ほかの労働者よりもパフォーマンスが若干劣っているだけにすぎない場合
- 上司やほかの労働者と相性が良くないことだけを理由に本採用を拒否する場合
本採用拒否を検討する際には、その理由に照らして適法と認められるかどうかを慎重に判断しましょう。
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(3)あらかじめ十分な改善指導を行う
本採用拒否の理由になり得る労働者側の問題点があるとしても、企業側による改善指導が不十分だった場合には、本採用拒否が違法・無効と判断される可能性が高くなります。
試用期間中の労働者については、雇い入れの直後からその仕事ぶりを観察し、問題があればその都度改善指導を行うことが大切です。 -
(4)本採用拒否を事前に予告する
本採用拒否は解雇に当たるため、原則として30日以上前に解雇予告を行う必要があります。解雇予告をしない場合は、解雇予告手当を支払わなければなりません(労働基準法第20条第1項)。
解雇予告をせず、かつ解雇予告手当を支払わずに行われた本採用拒否は違法・無効となるのでご注意ください。
4、本採用拒否の手続きの流れ
試用期間中の労働者について本採用拒否をする際の手続きの流れは、大まかに以下のとおりです。
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(1)本採用拒否通知書の作成
本採用拒否通知書に記載すべき項目は次の通りです。
- 従業員の氏名
- 社名、代表者役名
- 通知した年月日
- 使用期間の満了年月日
- 本採用拒否決定の旨
- 賃金の支払い
以下は、各必要項目を盛り込んだ、実際の本採用通知書のイメージです。
○年○月○日
○○ ○○ 殿
株式会社○○
代表取締役 ○○ ○○ 印本採用拒否通知書
当社は、就業規則第○条の規定により、試用期間が満了する○年○月○日をもって貴殿を解雇することを決定しましたので、その旨を通知します。
なお、労働基準法第20条第1項の規定に基づき、解雇予告期間として不足する○日分の平均賃金については、貴殿が退職する日までに支払います。
以上
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(2)解雇予告または解雇予告手当の支払い
労働者に対して本採用拒否通知書を交付して、解雇予告を行いましょう。
解雇予告期間が30日に満たない場合は、不足日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります。解雇予告手当の支払いが必要となる場合には、その旨を本採用拒否通知書に記載した上で、退職日までに支払いましょう。 -
(3)解雇・各種退職手続き
本採用拒否通知書の記載にしたがい、退職予定日において労働者を解雇します。
労働者の退職に伴い、企業は以下の対応などを行いましょう。- 貸与品、資料、データなどの回収
- 社会保険および雇用保険の脱退手続き
- 税金および保険料に関する処理
- 労働者に対する源泉徴収票、雇用保険被保険者表、退職証明書、離職票、健康保険資格喪失証明書などの交付
5、まとめ
試用期間中の労働者の本採用拒否は、法的には解雇に当たるため、解雇に関する厳しい規制が適用されます。正当な理由なく本採用拒否をすると、労働者との間でトラブルに発展し、経営上深刻なダメージを受けるおそれがあるので注意が必要です。
企業が本採用拒否をする際には、法的な有効性や労働者への対応などについて、弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、人事・労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。試用期間中の労働者の本採用拒否についても、その理由や労働者の勤務状況などを踏まえた上で、企業側のリスクを最小化するための方法をアドバイスいたします。また、労働者から不当解雇を主張された際にも、和解交渉・労働審判・訴訟などの対応も可能です。
試用期間中の労働者への対応に苦慮しており、本採用拒否を検討している場合、まずはベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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