遺言書の記載が間違っていたら効果がなくなる|訂正方法を解説
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四日市市には遺言に関する事務を取り扱う公証役場が設置されているため、遺言に関する広報を目にした経験のある方もおられるでしょう。
「遺言書を作成すれば、相続対策はひとまず安心だ」と思っていたが、さまざまな事情により遺言を書き換えたくなった、という事例はよくあります。しかし、遺言書の作成には厳格な方式が定められているのと同様に、遺言書の訂正についても厳格なルールが存在しています。ルールに合致していなければ訂正が無効になったり、遺言書そのものが無効となったりする可能性があるため、訂正には注意が必要です。
本コラムでは、遺言書の訂正方法についてベリーベスト法律事務所 四日市オフィスの弁護士が解説します。
1、遺言を正しく訂正する方法
一般的に用いられる普通方式の遺言には、「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」「公正証書遺言」の三種類があります。
以下では、それぞれの遺言書の特徴と、訂正方法を解説します。
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(1)自筆証書遺言(民法968条)
「自筆証書遺言」とは、遺言書の全文と日付、氏名を遺言者の自筆により作成するものです。
「遺言者が自ら筆記することで、遺言者の意思が反映されていることが担保される」という意味から、遺言者の自筆であることが形式面で重要な要件となります。
なお、平成31年1月13日以降に作成する自筆証書遺言はルールが緩和されており、遺言書本文と一体となる財産目録は、ワープロソフトなどで作成して署名押印することで自筆に代えることができるようになりました。
自筆証書遺言の訂正方法は、民法で次のように規定されています。「自筆証書(前項の目録(財産目録)を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。」(民法968条3項)
この規定を整理すると、次のようになります。
① 文字の削除、挿入
文字を削除する場合は削除する文字を二本線で抹消し、文字を挿入する場合は挿入する部分に「<」(縦書きの場合)などの挿入記号とともに挿入する文字を記載します。
これは契約書や役所に提出する文書など、一般的な文書の訂正方法と同様です。
なお、文字を抹消する際には、修正テープを使用したり塗りつぶしたりせず、元の文字も判読できるようにしておく必要があります。
② 訂正印
文字を削除、挿入した箇所に訂正印を押します。
これも契約書などの文書の訂正と同様のルールです。
訂正印は、遺言書の署名押印に用いた印章と同じものを使用してください。
③ 変更した旨の付記、署名
訂正箇所付近の遺言書末尾の余白に、訂正した箇所の特定と訂正内容を付記し、さらに署名します。
以下は、付記文言の例です。
- 1ページ7行目の「妻 布施花子」の5文字を削除し、「長男 中河内一郎」の7文字を加えて変更する。
- 2ページ財産目録2項部分を全部削除する。
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(2)秘密証書遺言(民法970条)
秘密証書遺言は、遺言書を封紙に封印して公証人の認証を受けることで遺言書として成立する方式です。
自筆証書遺言とは異なり必ずしも自筆で作成する必要はなく、ワープロや代筆により作成することもできます。
また、秘密証書遺言の訂正方法は自筆証書遺言と同様です。
ただし、秘密証書遺言を訂正するためには封紙を開封する必要がありますが、開封した時点で秘密証書遺言としての形式的要件を欠くことになります。
遺言書本体が自筆証書遺言の要件を満たす場合は、開封後も自筆証書遺言として有効ですが、本文をワープロで作成しているような場合は、訂正後に改めて封印し、公証人の認証を受けなければ遺言書としては無効となってしまいます。 -
(3)公正証書遺言(民法969条)
公正証書遺言は「遺言書の原本を公証人役場で保存して改変を防ぐ」という点が特徴の一つでもあるため、公正証書遺言書を直接訂正することはできません。
また、公証役場から交付される遺言書の謄本(写し)に加筆訂正しても、遺言を変更したことにはなりません。
例外的に、不動産など財産の表示や相続人の住所氏名など、客観的資料から明らかな誤記がある場合は「誤記証明書」の交付を受けることはできます。
しかし、遺言の内容を変更したいような場合は、次項で解説するように新たな遺言書を作成する必要があります。 -
(4)新たに遺言書を作成する方法も
遺言書の内容を変更したい場合は、すでに作成した遺言書に直接加筆して訂正する方法のほか、新たに遺言書を作成する方法もあります。
民法では、以下のように定められているため、新たな遺言書によって従前の遺言を変更したり撤回したりすることが可能になっています。- 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。(民法1022条)
- 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。(民法1023条1項)
なお、複数の遺言書を作成する場合、遺言の方式による優劣はありません。
たとえば、先に作成した公正証書遺言の内容を変更したい場合、後の日付で作成する自筆証書遺言書により公正証書遺言の一部を撤回して、変更後の条項を遺言として残すことも可能です。
ただし、複数の遺言書を残すことには、一部の遺言書が紛失したり隠されたりするリスクがあります。
また、遺言を変更した経過が相続人の目に触れると、変更により不利益を受ける相続人が不満を抱き、親族間に不和が生じるおそれもあります。
遺言の内容を変更する場合は、先に作成した遺言書は破棄するなどして全部撤回してから、新たに遺言書を作成しなおすことをおすすめします。
2、訂正の方式を誤った遺言書の効力はどうなるのか
前章で紹介した民法の条文にもあるとおり、遺言書を直接訂正する場合には、訂正印を押して訂正箇所と訂正内容を付記し、さらに署名をしなければ訂正の効力を生じないこととされています(民法968条3項)。
つまり「訂正の方式を誤ると訂正が無効となり、訂正前の記載が有効になる」ということです。
たとえば、訂正前の文字を塗りつぶすなどして判読不能になっていると、遺言の効力自体にも影響が生じる可能性があります。
民法で遺言書の訂正の方式についても事細かに規定されているのは、遺言書の偽造や変造を防止して、遺言者亡き後にその意思に沿った遺言内容を実現するためです。
しかし、あまりにも形式面を重視して、ささいな方式違背であっても訂正を無効とするのは、遺言者の意思が相続に反映されないことにもなってしまいます。
そのため、実際の相続実務においては「明らかな誤字の訂正にすぎないのであれば、訂正の方式を誤ったものでも遺言書の効力には影響しない」と考えられています。
3、遺言の訂正に関する裁判例
以下では、遺言書の訂正が方式に違背していたことにより遺言の効力について争われた実際の事件を二つ紹介します。
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(1)昭和47年最高裁判決
この裁判では、特別な方式の遺言である死亡の危急に迫った際になされた遺言(危急時遺言)の効力が争われました。
主要な争点は、危急時遺言の方式に関するものでしたが、遺言本文の訂正について、訂正の方式に欠けるところがあった点についても次のように判断されました。
「本件遺言書一枚目三行目に、「遺産します」とあるのを「遺言します」と一字訂正し、(中略)たんに明らかな誤記を訂正したにとどまり、(中略)附加訂正の方式において欠けるところがあつたとしても、本件遺言の効力に影響を及ぼすものではない。」
また、この判決では方式違背が遺言の効力に影響を及ぼさない基準についても「明らかな誤記の訂正にとどまるものであれば」と具体的に示されており、この考え方は現在の実務でも定着しています。 -
(2)昭和56年最高裁判決
この裁判では、先に作成した公正証書遺言が自筆証書遺言により全部撤回されたところ、自筆証書遺言の有効性が争われました。
争点となった自筆証書遺言の本文には、以下のように記載されていました。「遺言書 私は今まで遺言書を書いた記憶はながもしつくった遺言書があるとすれば 【「そ」1文字を抹消・訂正印】それらの【「ユ」1文字を抹消・訂正印】遺言書は全部【「取消…」数文字を抹消・訂正印】取消す」
しかし、訂正箇所の特定と訂正した旨の付記や署名を欠いており、訂正の方式に違背していることは明らかでした。
この点について、最高裁は以下のように判断しました。「自筆証書中の証書の記載自体からみて明らかな誤記の訂正については、たとえ同項《現在の民法968条3項》所定の方式の違背があっても遺言者の意思を確認するについて支障がないものであるから、右の方式違背は、遺言の効力に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。」
また、この判決では、新たに作成する自書証書遺言に訂正箇所がある場合にも訂正の方式に従う必要があることが判示されています。
なお、この裁判で争点となった遺言書の実物の写真は、裁判所のウェブサイトで公開されています。
4、遺言に関するサポートは弁護士が適任な理由
前章で紹介した裁判例は、遺言書の有効性が争われて最終的には有効と判断されたものですが、これらの事件は数年にわたって最高裁まで争われました。
遺言書の体裁や文字の訂正に関する方式が守られていなかったり、遺言内容の解釈に疑義があったりすると、遺言が原因で相続手続きが紛糾するおそれがあります。
それのような事態は、遺言を残す方にとっても本意ではないでしょう。
円滑な相続を可能とする遺言書を作成するためには、相続全般に関する法律知識が必要になります。
そのため、弁護士は、遺言書作成の最適なサポート役といえます。
また、遺言書を作成した後から「遺言の内容を変更したい」と思われることもあれば、遺言が適切に実行されるか不安に感じることもあるでしょう。
遺言の作成や見直しをきっかけとして、弁護士に遺言書の保管や遺言の執行も依頼するなどして、弁護士と気軽に相談できる関係を築いておくことも検討してください。
お問い合わせください。
5、まとめ
遺言書の内容は、一度作成したら変えられないというものではありません。経済的状況や心境の変化によって、内容を変更することができます。
また、法律上でも、遺言書の内容が変更される可能性を想定して、遺言書の訂正や変更に関する方式が定められているのです。
遺言を含む相続対策については、できるだけ長期間の計画を立てたうえで準備を進めたほうがよいといえます。
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